静寂と間が観る者の心を揺さぶる。アメリカの抱える社会の歪みに迫った『ムーンライト』

第89回アカデミー賞にて、作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門を受賞した『ムーンライト』
日本ではその話題を受け、1ヶ月早めての公開となりました。



今更気づいたんですが、ポスターをよくみると、ちゃんとシャロンが3人になってるんですね!
いいポスターですね。

ムーンライト(Moonlight)


監督バリー・ジェンキンス
原作タレル・アルヴィン・マクレイニー
出演者トレヴァンテ・ローズ
アンドレ・ホランド
ジャネール・モネイ
アシュトン・サンダース
ジャレル・ジェローム
ナオミ・ハリス
マハーシャラ・アリ
公開2016年
製作国アメリカ合衆国


あらすじ



/ リトル 月明かりで、おまえはブルーに輝く。

シャロン(アレックス・ヒバート)は、学校では“リトル”というあだ名でいじめられている内気な性格の男の子。
ある日、いつものようにいじめっ子たちに追いかけられ廃墟まで追い詰められると、それを見ていたフアン(マハーシャラ・アリ)に助けられる。
フアンは、何も話をしてくれないシャロンを恋人のテレサ(ジャネール・モネイ)の元に連れて帰る。
その後も何かとシャロンを気にかけるようになり、シャロンもフアンに心を開いていく。
ある日、海で泳ぎ方を教えてもらいながら、フアンから「自分の道は自分で決めろよ。周りに決めさせるな」と生き方を教わり、彼を父親代わりのように感じはじめる。
家に帰っても行き場のないシャロンにとって、フアンと、男友達ケヴィンだけが、心許せる唯一の“友達”だった。

// シャロン 泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ。

高校生になったシャロンは相変わらず学校でもいじめられている。
母親のポーラは麻薬におぼれ酩酊状態の日も多くなっていた。
自分の家で居場所を失ったシャロンは、フアンとテレサの家へ向かう。
テレサは「うちのルールは愛と自信を持つこと」と、昔と変わらない絶対的な愛情でシャロンを迎えてくれる。
とある日、同級生に罵られひどいショックを受けたシャロンは、夜の浜辺に向かうと、偶然ケヴィンも浜辺にやってくる。
密かにケヴィンに惹かれているシャロン。月明かりが輝く夜、二人は初めてお互いの心に触れることに・・・
しかし、その翌日、学校ではある事件が起きてしまう。

/// ブラック あの夜のことを、今でもずっと、覚えている。

あの事件からシャロンは大きく変わっていた。
高校の時と違い、体を鍛えあげ、弱い自分から脱却して心も体も鎧をまとっている。
ある夜、突然ケヴィン(アンドレ・ホーランド)から連絡がある。
料理人となったケヴィンはダイナーで働いていて、シャロンに似た客がかけたある曲を聴きふとシャロンを思い出し、連絡をしてきたという。
あの頃のすべてを忘れようとしていたシャロンは、突然の電話に動揺を隠せない。
翌日、シャロンは複雑な想いを胸に、ケヴィンと再会するのだが・・・(公式サイトより)


物語を3章に分け、シャロンが小さな少年だった頃から大人になるまでの成長を描く。
生まれ育った環境、家族、性癖、価値観、自らのアイデンティーを模索する物語。

監督はバリー・ジェンキンス
公開当初から話題になり、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞と数々の賞にノミネート・授賞を果たす。

ちなみにプロデュースには、ブラッド・ピットの制作会社「プランBエンターテインメント」が関わっており、製作総指揮はブラッド・ピット自身が行なっています。

バットエンドではないのに虚しさの残るラスト


ハッピーな映画ではないだろうと覚悟はしていましたが、やはり鑑賞後はしばらく言葉が出ませんでした。
決して悲しい終わりではないのですが、寂寥感というか、虚しい気持ちで胸がいっぱいになります。
上映後の劇場の雰囲気もしんみりとしていて、皆さん言葉少なに退場している方がほとんどでした。
やっぱりみなさん同じような気持ちを抱いたのではないでしょうか。

本当の自分とはなんだろう、と我々に訴えかけてくる映画です。
誰にも左右されない、自分のことは自分で決める、そういう人生を送れたらそれはとても幸せです。
けれども現実はそううまくいかないのだということを、むきだしに描写しています。
思ったようにいかないのが人生なのだと、それを幸せに感じることもできるのではないか、と訴えてきます。

こういった誰しもが抱くであろう悩みや葛藤を黒人の役者が演じている、というのも話題になったポイントなんだろうと思います。
自らのアイデンティーを求める姿に共感する一方で、「黒人差別・ドラッグ・同性愛」という作品の大きなキーワードは、日本人の心にはイマイチ刺さるものがない気がしました。
日本にも少なからずこう言った問題ははびこってはいるのでしょうが、あまり表面化しないので、第三者のような気持ちでみてしまいました。
これが現実にもありうる物語なんだというのは、あまり実感できないですね。

映像に関しては、カメラワークにかなりこだわって演出していたように感じます。
視点の移動や、カメラのブレやピントの合わせ方に、ドキュメンタリー映画のような、身に迫ってくるものを感じます。
特に役者たちの「視線」がとても印象的で、決してセリフは多くないのに、彼らが無言でじっとカメラを見つめるカットが現れると、心の奥まで見透かされたような奇妙な気持ちになりました。

生まれ育った環境が人生に与える影響の大きさ


私はシャロンという1人の少年の成長物語をみつめ、なにかやりきれない気持ちを抱きました。
生まれ育った環境というものは、自分が思っているよりも大きく自らの人生に影響されるものなのでしょう。
『ムーンライト』は、温かい感動物語とは少し違うような気がします。

シャロンは幼い頃からいじめられ、家でも母親に虐待される。
そんな彼は自分という人間がなんなのかわからず、どうしようもできない状況の中で育ってきました。
幼いシャロンのことを気にかけてくれたフアンが、「自分の道は自分で切り開いていくんだ」、とシャロンに諭すシーンがありますが、それを小さい子供が理解し、実行していくことは難しいものです。
周りに流されず自分の道は自分で切り開く、なんてことを子供のうちからやりとげることは、なかなか難しいものです。

「同性愛」というテーマに関しては、同性愛というよりは「愛情の形」を描いているように思いました。
シャロンが同性愛者であるだろうという描写は匂わす程度にあります。
いじめの延長で「オカマ」と言われたことがきっかけだったのか、それとも孤独の中で手を差し伸べてくれたケヴィンの存在がきっかけだったのか。
それははっきりとは描かれません。

シャロンが最後にケヴィンに言うセリフが、とても印象的でした。

「あれ以来、あんなことをしたのは君以外誰もいない」

ただ、シャロンにとって心を許し、愛おしいと思った相手が、同性の、ケヴィンだったというだけなのではないでしょうか。

黒人のコミュニティの中でもお互いをいじめ合う環境があるんだ、というのもハッとさせられました。
黒人差別と言って、よく白人が黒人を差別したという話はニュースになることも多いですよね。
だからといって黒人は皆兄弟、というわけにはならないのが現実なんですね。

一つのコミュニティがあれば、必ず上下関係が生まれ、どうやっても仲間外れができあがってしまうのです。
これはどんなところでも同じで、世界共通に起こりうる現状なのだ、と改めて感じました。

過酷な環境の中で育ったシャロンは、大きくなり、結局拒絶したはずのフアンと同じドラッグの売人として生活するようになります。
この結果こそが、悲しいけれど、生まれ育った環境は自分の人生に大きな影響を与えるものだという答えなのではないでしょうか。

ドラッグの売人として生きているシャロンを、母親のポーラは心配します。
このシーンもやりきれない気持ちでいっぱいになりました。

久しぶりに会ったポーラは、シャロンのことを心配し、過去の過ちを謝るのです。
なぜ?どうして今になって?
私は過去のことを今更謝ると言う行為自体が昔から苦手で、こういうシーンはついしらけてしまいます。
感動的なシーンなのですが・・・(笑)

人間、時が経って、自分の生活が落ち着いて心に余裕が出ると、自らの過去を振り返り、許されたくなるのでしょう。
シャロンも、いまさらそんなことを言うなと反論しますが、必死に愛していると伝えるポーラを見てやがて涙を流し、彼女のこと抱きしめ、許すのです。
なにをされたって、なにをしたって、親であり、子であることは変わらないのです。
シャロンが流した一筋の涙はとても美しくて印象的だった。

純粋で、一生懸命なひとりぼっちシャロン


主人公のシャロンを一言で言うなら、とにかく純粋な男の子
彼は多くの傷を受け、生きづらさを背負いながらも孤独な日々を受け入れ、諦め、過ごしていました。

学校でも家でも虐げられ、シャロンはいつもひとりぼっちで、誰にも心を開くことはなかった。
フアンテレサと出会うことで、彼の孤独はいくらか解消され、少しずつ心を開いて生きました。
フアンとの出会いも、彼にとっては大きな出来事でしたね。
彼に出会えてなかったら、もっと過酷な人生を歩んでいたのかもしれません。

ケヴィンとの関係も、同性愛という括りではなく、それを超えた人間愛だったのではないでしょうか。
シャロンが同性愛に目覚めたきっかけというのも曖昧でしたし、ケヴィンも同性愛者であるという描写はどこにもなかったので、同性愛者としてお互いを愛していたというのではなく、生い立ちや人間性の部分に惹かれ合って最終的にあのラストを迎えたのだと私は考えます。

最後のシーンはとてもドラマチックでしたね〜
シャロンは、ずっとケヴィンだけに心を開き、彼のことだけを愛し続けていた。
それはやはり幼少期の頃、ケヴィンだけは変わらずにシャロンと接してくれていたことがきっかけなんでしょうね。
あんな風に殴られても、シャロンにとってケヴィンは唯一の特別な人だった。

ケヴィンのことも、許せねえ・・・なんで今更・・・とか思ってしまった私。
再開した後のシャロンとケヴィンのやり取りをみて、私ってなんて情緒がないんだと反省しました(笑)

3人のシャロン


本編は「i リトル」「ii シャロン」「iii ブラック」3章に分かれています。
3つの章の主人公はもちろんシャロン1人で、全ての章を通して彼の成長を描くのですが、シャロンを演じるのは3章とも違う役者なのです。

「i リトル」では、アレックス・ヒバード
「ii シャロン」では、アシュトン・サンダース
「iii ブラック」では、トレヴァンテ・ローズ

この3名が1人の主人公を章ごとに演じています。

3名とも、決して有名な役者ではありませんが、シャロンというキャラクターのイメージをしっかり統一した自然な演技で、違和感なく1人のキャラクターを演じていました。
章が変わって、見た目が変わっても、ああシャロンだ、と自然に受け入れられました。

どのシャロンも、みんないいをしているんですよね。
純粋無垢、諦め、虚しさ、そういったものが混じった瞳。
無言でこちらを見つめるその瞳の存在感よ。

「静寂」で全てを伝える作品


『ムーンライト』は「静寂」の映画と言っても過言ではないでしょう。
劇中に、ここだ!という山場はなく、川が流れるようにただ時間が流れていく様を捉えたよう。

キャラクターたちは多くを語らない。
音楽や、セリフがとても少ない作品です。
その静寂と、が、かえって私たちに考えさせる時間を与え、作品に潜む様々なテーマを痛烈に訴えかけてきます。

一方で、キャラクターたちの「瞳」はとても情熱的で、全力で語りかけてきます。
彼らは決して激情的に何かを語ることはないのですが、その「視線」はとても強烈で、真に迫るよう。
シャロンや他のキャラクターたちが、ただじっとこちらを見つめているだけのシーンがいくつかあるのですが、そのシーンの目力と視線がいつまでも頭の中から離れません。

カメラワークの演出も凝っていたように思います。
キャラクターに接写するアングルが多く、静と動がはっきりしたカメラの動き。
第三者の観点で見ているのではなく、誰かの瞳を通して、一対一で見つめ合っているかのようでした。

良かった点


・静寂と間の演出

やはりシンプルな作りに一貫しているのが、この作品の良さかなと。
多くは語らない、それがかえって私の胸に突き刺さってきました。

悪かった点


・日本人には理解しづらい、社会問題

これは映画が悪いのではなく、文化の問題ですね。
『ムーンライト』で描き出されるテーマが、決して日本にとって関係ない問題だというわけではありません。
ただ日本人にはあまり馴染みのない世界観で、どこか他人事のように感じてしまいますね。

まとめ


静かに、言葉少なに、少年が成長していく姿をみつめ続ける2時間。
自分の人生は自分で切り開いていくものだが、どうにもできない抗えないことだってある。
虚しさとやるせなさを感じながらも、ほんのり輝く希望を見出せる作品です。

アメリカ人として生きているからこそ胸に刺さるんだろうテーマもあり、その部分は私にはちょっと他人事のように感じてしまいました。
日本では評価されづらい作品のような気もします。

アカデミー賞での賞レースを争った『ラ・ラ・ランド』とは、全く対極にあるような作品ですので、同じ年に話題になった2作品を見比べてみるのも面白そうです。

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