過去の自分と向き合うことの難しさ。美しい景色と音楽も印象的な『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

第89回アカデミー賞で、脚本賞と主演男優賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
日本でも半年遅れで公開され、ようやく観に行ってきました!



マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)


監督ケネス・ロナーガン
脚本ケネス・ロナーガン
出演者ケイシー・アフレック
ミシェル・ウィリアムズ
カイル・チャンドラー
ルーカス・ヘッジズ
公開2016年
製作国アメリカ合衆国


あらすじ



アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー・チャンドラーのもとに、ある日一本の電話が入る。
故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーにいる兄のジョーが倒れたという知らせだった。
リーは車を飛ばして病院に到着するが、兄ジョーは1時間前に息を引き取っていた。
リーは、冷たくなった兄の遺体を抱きしめお別れをすると、医師や友人ジョージと共に今後の相談をした。
兄の息子で、リーにとっては甥にあたるパトリックにも父の死を知らせねばならない。

ホッケーの練習試合をしているパトリックを迎えに行くため、リーは町へ向かう。
見知った町並みを横目に車を走らせるリーの脳裏に、過去の記憶が浮かんでは消える。
仲間や家族と笑い合って過ごした日々、美しい思い出の数々——。

兄の遺言を聞くためパトリックと共に弁護士の元へ向かったリーは、遺言を知って絶句する。
「俺が後見人だと?」
兄ジョーは、パトリックの後見人にリーを指名していた。弁護士は、遺言内容をリーが知らなかったことに驚きながらも、この町に移り住んでほしいことを告げる。
「この町に何年も住んでいたんだろう?」
弁護士の言葉で、この町で過ごした記憶がリーのなかで鮮烈によみがえり、リーは過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。
なぜリーは、心も涙も思い出もすべてこの町に残して出て行ったのか。
なぜ誰にも心を開かず孤独に生きるのか。

リーは、父を失ったパトリックと共に、この町で新たな一歩を踏み出すことができるのだろうか?(公式サイトより)


第89回アカデミー賞にて脚本賞主演男優賞を受賞した本作。
監督は『ギャング・オブ・ニューヨーク』『マーガレット』のケネス・ロナーガンが務めます。

製作にはマッド・デイモンが携わっています。
当初主演も彼が務める予定だったそうですが、スケジュールの都合で、主演は親友ベン・アフレックの弟であるケイシー・アフレックに譲ったんだそうです。

素朴で情緒的な映画


こういう物悲しい雰囲気の映画すごく好きです・・・!
物語の舞台であるマンチェスター・バイ・ザ・シーの景色が美しく、音楽も素朴なのにどこか切ないメロディーが印象的でした。

ブロークバック・マウンテン』に似たものを感じます。
あの作品もすごく好きで、鑑賞中ふと思い出しちゃいました。

この映画は、誰かを応援する映画ではなく、寄り添ってくれる映画です。
傷つき、悩む人たちにそういう選択肢もあるんだよと、抱きしめてくれるような、背中を支えてくれるような温もりで包んでくれます。
ラストは賛否両論あるだろうけど、私はこういう終わり方もいいなと思いました。

すごく重い映画というわけではなく、飾り気のない雰囲気がかえって心にじんわりしみてきます。
劇中のキャラ同士、特に主人公のリーと甥っ子のパトリックのテンポのいいやりとりが面白く、気分が落ち込みがちな展開も笑って流せるような演出がされています。

ケイシー・アフレックの演技も良かったですね。
寡黙なキャラクターですが、繊細で、実はたくさんの感情を抱えているのを佇まいや表情から感じられました。

乗り越えられないことだってある


この物語は、主人公が自分の故郷へ帰ることで、自身の過去と向き合って行く物語です。

ボストンで便利屋として働くリーの元に、一本の電話がかかったことから、彼の人生に転機が訪れます。
心臓病で長くは持たないと言われていた、リーの兄が亡くなったのです。
リーは自分の故郷であるマンチェスター・バイ・ザ・シーへと帰ります。

兄の葬儀や埋葬などの手続きを進めて行くうちに、遺言書にあることが書かれていることが判明します。
それは兄の息子であるパトリックの後見人を、リーが務めるということが書かれていました。
これは実は兄弟間で話し合ったことはなく、兄が勝手に決めたことだったのです。
困惑するリー。そりゃあそうだ。

ボストンに引っ越そうとパトリックにリーは提案しますが、案の定パトリックは激しく拒否します。

本編序盤はそんなリーの日常が描かれていますが、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーへ帰った中盤からは、彼の過去に迫っていきます。
ここで、リーに何があったのかが徐々にわかってきます。

リーは過去に自分の過失から家が火事になってしまい、3人の娘を亡くしてしまったという辛い過去があったのです。

故郷の人々と交流していくうちに、主人公が過去の呪縛から解放される・・・そんな展開かと思っていました。
しかし本作は違います。

リーは自身の過去と向き合うことはできずに、結局負けてしまうのです。
悲しかったり、辛かった出来事は、ある程度は時間が癒してくれるのかもしれません。
けれど時間が経ったことで、リーは心に何重も蓋をしてしまい、そのまま、開け方がわからなくなってしまったのかもしれません。
リーはよくパトリックのことを「心を開いてくれない」と言っていましたが、本当に心を開いてくれなかったのはリーの方なんじゃないかなあと思いました。

人間の記憶は五感と結びついているものですよね。
恐らくリーはマンチェスター・バイ・ザ・シーの景色、匂い、音、それらを聞くだけで昔のことを思い出してしまい、辛くなってしまうのでしょう。

誰もが皆、辛い過去から乗り越えられるわけではないのです。
勇気付けて、自分を前向きな気持ちにさせてくれる映画もたくさんあります。
ですが本作は、これが現実と突きつけられているような気もしました。
乗り越えなくてもいいんだとよ、という優しい言葉ではなく、乗り越えられないことだってある、そうすることで自分を守っているんだ、という、こちらから手を差し伸べることはできない一線を感じる言葉をかけられたような気持ちになりました。

ラストは、少しだけ歩み寄ったパトリックとリーの姿で終わります。
虚しい結末なのに、2人の表情はどこか柔らかく、未来に希望を感じるようなシーンでした。
過去を乗り越えられませんでしたが、リーは今回の出来事で、今までガチガチに固めていた心の蓋を、少しだけ開けるようになったのでしょう。

過去のあやまちから抜け出せない主人公


主人公のリーは、いつも1人で、孤独に生きていました。
現在のリーは、いつも死んでいるような表情をしていて、退廃的な雰囲気を感じます。
顧客にも愛想がなく、酒場では喧嘩をする日々。

一方昔のリーは陽気でおバカな男で、今の彼とはかけ離れているくらい楽しそうな人間でした。
ところが、自身の身に起きた不幸から、一気にその人生は変わってしまうのです。

リーは乗り越えないことで自分を罰し、同時に自分自身を守っているのかもしれないなとも思いました。
火事が起きてからの警察とのシーンはそれを感じる印象的なシーンです。

警察官にことのあらましを伝えるリー。
彼が寒がる子供たちのために暖炉に火をつけ、カバーをしないでコンビニに出かけてしまったことで火事が起きてしまいました。
つまり、火事はリーの不注意によって起きてしまった事故なのです。

そうなると、刑事罰で罰することはできません。
警察官たちも、「それは誰でも起こしうることです」と、リーが罰せられることはないことを告げます。
そのあとリーは警察官から銃を奪い取り、自らの頭を打ち抜こうとします。

いっそのこと誰もがわかる形で罪だと証明され、罰せられて、刑務所に入れられた方が、リーの心が救われたのかもしれません。
誰も責めることはできない、社会的にも罰せられることはない、けれどリーはその罪から永遠に逃れられることはできなくなってしまいました。

本編終盤のリーと元妻の会話のシーンが、また辛い。
リーは、過去の自分を許す最後のチャンスを、捨てます。
元妻があの時のことをひたすらに謝るのに対し、逃げるようにリーはその場を去っていきます。

あれは元妻に対してかなり胸糞悪いものを感じますね〜
元妻はリーに過去を許すようなことを言っていましたが、自分が許されようとしているようにも見えました。
彼女は再婚していて、新しい子供もいる。
一方リーは、独り身。

涙ながらに謝罪を続ける元妻に対して「そう言ってもらっただけで救われた」とリーは返していましたが、ああなんてかわいそうなんだ・・・
本当はそんなこと一ミリも思ってないんじゃないのか。
あそこでリーも自分の気持ちを彼女にぶつけたらよかったのに。

リーに寄り添って互いに支えあえたら、また違う未来があったかもしれませんね。
元妻でなくても、リーにも誰か彼を支えてくれる人がいたら・・・

重い過去を背負い続けることで、自らで自らを罰するリーの姿は、みていて辛くなるばかり。
数年ぶりに再会した甥パトリックとの短い生活は、彼に大きな変化をもたらしたわけではありませんが、少しずつリーの心をほぐしてくれました。
最後にキャッチボールをしていたシーンはほっこりしましたね。
いつかリーが、過去から解放されたらなあと願わずにはいられません。

ケイシー・アフレックよかったよ!


ケイシー・アフレックの演技とても良かったですね。
生きているのに死んでいるような人間を、全身で表現していました。
何考えているかわからないし、どんな感情なのかもよくわからない、「無」を感じました。

渋くて繊細な演技が印象に残りました。

彼は今まではどちらかというとお騒がせなイメージがありましたね。
最近だとドキュメンタリー映画を作っていたけれど、実はそれはヤラセだったことが発覚してましたね。
兄のベン・アフレックとマッド・デイモンに可愛がられていて、彼ら絡みの仕事が多いせいで、よくそのネタでからかわれていましたし。
これで2人からもついに卒業ですかね?

元々は演技力もとてもあると思うし、これからいろんな作品で活躍してほしいですね!

マンチェスター・バイ・ザ・シーの美しい景色と寄り添ってくるような音楽


物語の舞台となったマンチェスター・バイ・ザ・シーの景色の美しさが素晴らしいです。
心が穏やかになるというか、あの素朴で何もないような土地の雰囲気が心の中にじわじわ入り込んできます。

音楽も綺麗な透き通ったメロディの楽曲が多くて、映画の内容と相まって切ない気持ちが湧いてきます。

音楽と景色が、まるでリーの止まってしまった時間を表現しているようなんですよね。
上手い演出です。

マンチェスター・バイ・ザ・シーって土地の名前なんですね。
アメリカのマサチューセッツ州にある、人口5,000人ほどの小さな港町です。
街ができた当初はマンチェスターと呼ばれていたのですが、ニューパンプシャー州にも同じ地名があったため、海のそばにあったことからマンチェスター・バイ・ザ・シーと呼ばれるようになったんでそうです。

マンチェスターなんていうからイギリスのどこかかと思っていました(笑)
でも実際にイギリスにあるマンチェスターから取られた地名なんだそうですよ。

良かった点


・マンチェスター・バイ・ザ・シーの景色
・音楽


映画を作る景色・音楽が、作品の雰囲気に合っていて美しいです。

悪かった点


・言葉遣い悪すぎじゃない?

悪いというか、気になった点です。
これは土地柄しょうがないんだろうとはわかってます!わかってますが!
老若男女みんな言葉遣い悪すぎて笑いそうになっちゃいました(笑)
クソ真夜中ってなんだよ!

まとめ


順風満帆で人生を歩んでいく人もいれば、荒波の中をもがきながら進んでいく人だっている。
生きていくことの難しさや虚しさを感じる作品でした。

過去を乗り越えるのはそう簡単なことではないのです。
逃げて逃げて、やがてようやく、少しだけ乗り越えられるようになっていくかもしれません。
いろんな選択肢があっていいんだと考えました。

マンチェスター・バイ・ザ・シーの美しい景色と、美しい音楽にも身を委ねてみてください。

次はお兄さんの作品『夜に生きる』を観てきます!

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