人間とは何か。魂とは何か。美しい映像技術は、その目で確かめて欲しい。『イノセンス』

いよいよハリウッド版『GHOST IN THE SHELL』が公開になりましたね!
ハリウッド版を観る前に、『攻殻機動隊シリーズ』の世界観をおさらいしておこうと、先日アニメ版の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』を久しぶりに見返しました。
そして今日は、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』の続編にあたるアニメ映画『イノセンス』を見返しましたよ。



いやー実は今回で『イノセンス』の鑑賞は数年ぶり2回目なのですが、相変わらず深すぎて、感想を文章にするのがむずかしい・・・(笑)

イノセンス(INNOCENCE)


監督押井守
脚本押井守
出演者大塚明夫
山寺宏一
田中敦子
大木民夫
仲野裕
竹中直人
公開2004年
製作国日本


あらすじ



人間とロボットが共存し、お互いの境界線が曖昧になった未来、2032年。
「人形使い」の事件によって草薙素子が行方をくらませてから4年が経っていた。
政府直属の非公開組織「公安9課」に所属するバトーは、全身をサイボーグ化しており、自身を認識するものとして、わずかに残った脳と草薙素子の記憶だけが存在していた。

ある日愛玩ロボットが暴走し、所有者を次々と惨殺する事件が起きる。
殺された所有者の中に公安の関係者がおり、テロ事件の可能性があるとして公安9課が捜査に乗り出した。
バトーは同じチームのトグサとペアを組み、事件の全容を明らかにしようとするも、様々な妨害に遭う。


1996年公開の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』の続編にあたる。
監督である押井守氏の、当時9年ぶりの新作アニメーションで、準備期間に2年、制作期間に3年を費やした実に気合いのこもった大作である。

一度で全てを理解することができないけど、それがいい


やっぱり世界観が素晴らしい。凄く好き。
映像・音楽・ストーリー、すべてにおいて独特の世界観で、現実から乖離した世界へと引きずり込んでくる
ただ万人向けではないですよね。そういうところも押井作品の魅力でしょうか。

『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』も自我の存在を問う哲学的なテーマの作品でしたが、『イノセンス』はそれを超える。
初見では正直、全体の30パーセントくらいしか理解できなかったと思います。
一度見るくらいではその世界観を理解することは難しい。というか無理。

『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』も決して単純な作品ではないのですが、まだ多分こういうこと言ってるんだろ?となんとなく理解することができましたが、『イノセンス』は終始、頭の中が疑問符でいっぱいになりました。

知識の少ない身からすると、キャラクターたちのセリフは、古今東西の格言を引用しまくっていて、何がなんだかわけがわからず。
無知さを恥じたり。

彼らが放つセリフの全てに意味があるのはわかるのですが、なんせ難しい上に言葉遊びが巧みなんです。
何やら難しいことを言ってるぞ、と気づくといちいちそっちの言葉に意識がいってどんどんストーリーに置いてけぼりにされてました(笑)
今回久しぶりに観て、ようやく作品の全体像が掴めたなと感じたほどです。

映像と音楽は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』同様、今みてもすごいなと、目を見張るレベルです。
特にBlu-rayで改めてみると、CGの細かいディテールや美しさにため息が出ます。
間合いも前作同様健在で、独特の不気味さでもって作品の世界観をより完璧なものに演出しています。

魂と身体の存在意義


『イノセンス』が公開された当時、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』の続編とは強調せずに、新しい別の作品、というプロモーションがされたそうです。
なので、何も知らずに観に行って全く意味がわからなかったという観客の方も多かったのだとか。
しかし『イノセンス』は、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』のテーマをさらに深く掘り下げた作品、という捉え方でいいのではないでしょうか。
なので私は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』を観てから『イノセンス』を観ることを強くオススメします。

どちらの作品も、「魂と身体」の存在意義を問うている作品だと思います。
素子は全身サイボーグとなった自分の存在意義に疑問を抱き、人形使いと融合したことにより魂を収める「器」から解放された。
そして今回は、残されたバトーが自身の存在意義に疑問を持つようになる。

人はなぜ人形や、犬を求めるのか。
人間と人形・動物の違いは、自我や自意識があるかないか、という点ではないでしょうか。
電脳化が進み、人間とロボットの存在が不分明となりつつある世界の中で、人々はますます「身体」という存在が必要なくなってしまった。
自分自身という存在を認めるために、自我や自意識のない人形や犬をそばに置いておきたいのかもしれません。

『イノセンス』は、自分の存在意義生きているという証幸福、それらを求め続ける人間の不安定で、混沌とした部分が描かれています。
SFなんだけど、SFじゃないというか。SFの世界観に哲学を詰め込んでいるような作品です。

そして作品のタイトルである『イノセンス』というのも、実にこの映画を如実に表現していると思います。
このタイトルはスタジオ・ジブリプロデューサーである鈴木敏夫氏が思いついたものなんだそうですが、天才かと大変感心しました。
ラストの衝撃的な結末だけでなく、劇中の様々な視点やキャラクターの感情が『イノセンス』という言葉につながると思います。秀逸。素晴らしい。
ちなみに「イノセンス(innocence)」とは、「無罪、純粋、純潔、無知、無邪気」といった意味をもちます。

バトーの孤独な姿が切ない


今作の主役は、公安9課に所属するバトー
全身義体のサイボーグで、自身を認識するものは脳と「草薙素子」との記憶だけ。
相棒のバセット・ハウンドと一緒に暮らしている。

ちなみに押井監督はバセット・ハウンドがたいそうお気に入りらしく、彼の様々な作品に登場します。
実際に飼われてもいるんだとか。

一言で言えば、孤独な男なのです。
孤独な男が、己と向き合っている姿が描かれている。

彼のハードボイルドな感じがたまりませんね。
声優を務める大塚明夫さんの声もさらにハードボイルドさを上げている・・・

義体化されいない生身の身体を持ち、さらに家族もいるトグサとのやりとりも、対照的な考えが垣間見えて興味深かったです。
マフィアの事務所に乗り込む時も、トグサは終始家族と保身を第一に考えながら捜査に当たっている一方で、バトーは無鉄砲に敵地へと乗り込んでいく。
自分には背負うものがないから、命を顧みず事件に突っ込んでいく。そんな姿のバトーはどこか悲しげで、トグサやイシカワたちと別れる際の背中に漂う哀愁は半端なかったですね。
背中から哀愁漂わせる押井監督すごすぎないですか・・・みえないものを描くうまさよ。

そして、素子のことを追い続けている姿がまた遣る瀬無い気持ちにさせられる。
素子のこと守護天使とか言っちゃうの可愛すぎ・・・
素子がバトーに合流して、一緒に戦う時にさりげなく彼女に上着をかけてあげる仕草とか、細かい演出にグッとくる。
バトーがどういう人間なのか、きちんと組み立てられているんだなあと感じるシーンでした。

攻殻機動隊と言えばこのメンバーよ・・・


キャストは前作に引き続き、同じ声優さんが務めています。

草薙素子役に田中敦子氏。
バトー役に大塚昭夫氏。
そしてトグサ役には山寺宏一氏。

イシカワと荒巻課長も仲野裕氏と大木民夫氏と、同じ方が務めていましたね。

また物語の重要なキャラクターであるキム役を、俳優の竹中直人氏が演じていました。
竹中さんは声優も上手ですよね〜
『アベンジャーズ』シリーズのニック・フューリー役も以前やられてましたが、とても自然な演技をされていた印象を持っています。

今回はバトーとトグサがメインで会話していたことが多かったように思いますが、やっぱり上手い人が演じると安心しますよね。
大塚さんと山寺さんは、息遣い間合いが抜群に上手だなと感じますね。
違和感なく、そのキャラクターが話しているように感じられるし、作品への没入感がより高まります。

特に今作は誰かの言葉を引用して話すシーンばかりで、そういうのってどんなトーンで話すか難しいと思うんですよね。
引用部分を強調して話すといやらしい感じになってしまうし、かといってさらっと流すと物語にアクセントがなくなってしまうし。
難しい会話のトーンやアクセントが、とても自然に成り立っていて、さすがの貫禄でした。

物語の後半で登場する少佐も、やっぱり想像通りの少佐で安心しました。
実は当初草薙素子役には、女優の山口智子氏の名前が挙がっていたそうなのですが、監督とキャストの大塚氏と山寺氏の強い反対にあって、前作同様田中氏の続投が決まったんだそうです。
今考えると恐ろしい・・・何を言ってるんだお前は・・・という感じですね。
山口さんが云々とかじゃなく。素子は田中さん以外の選択肢があると?いいや、ないね。

先日行われたハリウッド版『GHOST IN THE SHELL』のイベントにて、田中さんが「少佐は4度、私を選んでくれた」と発言していましたが、そう考えるとなんだか感慨深いものがありますね。
神山健治監督による『攻殻機動隊シリーズ』の新アニメシリーズも決まったことだし、ぜひ田中さんには5度、少佐に選ばれて欲しいです。

CG、音楽、演出、10年以上前のものとは思えない


さて映像に関してはつらつら書くよりも、実際の映像をみて欲しい!というのが本音。

まず開始30秒で息が止まります。圧倒されて。
もうわけがわからない。これからもっとわけがわからなくなるのに(笑)
他のどの映画作品をも凌駕するCG美しさ細やかさ
アニメ映画の中では未だに最高峰の作品だと言っても過言ではないかと。

そこに合わさる川井憲次氏の音楽も素晴らしい。
オープニングの音楽は、72人で合唱しているものなのですが、とてもそんな大勢で歌っているとは思えない統一感のあるコーラス。
ジャンルで言えば民謡、というのでしょうか。
このなんともいえない不気味で不安になる独特な歌声と音階は、より押井監督らしい攻殻の世界観を深めていますね。

私が一番『イノセンス』で好きなのは、やっぱりバトーがプラント船に潜入してからですね。
CGもすごく綺麗で文句のつけようがないのですが、作画がすごい。
作画担当の方たちの本気をみせつけられる動きの数々。
バトーの体重を感じるような横揺れの動きや、銃を撃ったときの微妙な後ずさりとか、とにかくヌルヌル動く
ハダリが暴走する動きも俊敏すぎて、これが本当に手書きで作られたものなのかとはにわかに信じがたいハイクオリティです。

『イノセンス』の技術的な面で語るのに欠かせないのが、コンビニのシーンでしょう。
あのシーンの、実はバトーがハッキングされているシーンだった、というトリックのある演出にも興奮しますが、コンビニの作りにも注目です。
押井監督は、コンビニ自体の3Dのセットを作り、デジタル撮影をしてみようと考えていたそうです。
しかしそうするには、実際にあるコンビニの商品を一からすべてスキャンしてパソコンに取り込んでいくという気の遠くなる作業が必要で、このシーンを作り上げるだけで1年以上かかってしまったんだとか!
結局3Dスキャンのセットはこのシーンのみになったんだそうですが、リアルなコンビニの商品がおびただしいほど並んでいるのをみると、まるで実写映画を観ているような不思議な感覚にさせられますね。

前作同様、車の窓カラスのホコリや光が車内に入る描写など、そんなとこみないだろうに・・・とおもう細かい演出も健在です。

良かった点


・SFと哲学の混じり合った世界観
・CGやセル画などの映像演出


『攻殻機動隊』といいつつも、どちらかというと押井監督の世界観が強いような気もしますが、それも含めて引き込まれるものがあります。
世界観がわからなくても、CGやセル画のクオリティは必見かと。

悪かった点


・一度見るだけでは理解しきれない

良くも悪くも見る人を選ぶ作品でしょう。
もちろん押井監督は万人受けするように作っていないのはわかります(笑)
なので、作品の世界観にハマらなければ、面白いと感じることはできないかもしれませんね。

まとめ


『攻殻機動隊』の持つ世界観と、押井監督の持つ世界観が見事にマッチした作品です。

難しい作品ではありますが、何度でも観たくなる不思議な魅力を持った作品でもあります。
一度目は何も考えずに観て、次は内容を咀嚼しながら観て、色々な解説を読んで最後にもう一度観る。
このスタイルで『イノセンス』を楽しんでほしいです。

映像や演出の美しさに関してはもうこれ以上言葉にする力がないので(笑)、実際にみてみてください。
百聞は一見にしかず、とはまさにこのことだと実感しますよ。

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